お知らせ:佐藤二葉『アンナ・コムネナ』第1巻刊行

 このブログではここまでアンナ・コムネナが晩年を過ごした屋敷のあったケカリトメネ修道院の規約を読んできているわけですが、このアンナを主人公とする佐藤二葉さんの漫画、『アンナ・コムネナ』の第1巻が星海社から刊行されることとなり、その発売が明日12月10日に迫っています。それに先立つ11月30日からは、ツイ4でも同作の連載が始まっています

 実はこの第1巻については、私もかねてからのご縁で調査などをほんの少しだけお手伝いさせていただきました。その経緯もあり、この記事も宣伝のつもりで書いています。その前提のうえで『アンナ・コムネナ』について言わせていただくと、やはり『アレクシアス』や『歴史学の慰め』をはじめとする史料や研究を踏まえながら、豪華なフルカラーの絵とともに丁寧に織り上げられた作品なのは言うまでもなく、その結果、アンナ夫婦をはじめとする人々も、一般にはさほど名の知られていない人物に至るまでみなそれぞれに魅力を与えられています。なお紙の本では*1、きらびやかで自信に満ちたアンナが圧倒的なパワーを放つ装丁もさることながら、ビザンツを特徴づける絢爛たる黄金や地中海の青空も一層美しく出ているので、是非手に取ってご覧になることをお勧めします。

 また、おそらく初めてビザンツを中心的に取り扱った日本語漫画作品が登場したということも『アンナ・コムネナ』刊行の意義の一つといえます。これまでに日本語で出版されたビザンツを舞台とする創作物は小説が中心で、例えば、翻訳ですが同じくアンナ・コムネナが主人公のトレーシー・バレット(山内智恵子訳)『緋色の皇女アンナ』、塩野七生コンスタンティノープルの陥落』、最近ではベリサリウスとプロコピオスが活躍する高橋祐一『緋色の玉座』などの作品を現在私たちは読むことができます。この流れに漫画が加わることで、これまで以上にビザンツをめぐる物語の世界が媒体を問わず広がっていくことを勝手に期待しています。

 一方、海外に目を向けると、近年のビザンツ漫画では、ロマノス2世およびニケフォロス2世の皇后テオファノが主人公のS. Theocharis, Theophano: A Byzantine Tale(バシレイオス2世が主人公の続編も近々出るそうです)、そして『ディゲニス・アクリタス』を原作としたDigenes(こちらは来年から本格的に刊行予定ということで、佐藤さんに教えていただきました)などが挙げられます。また、アンナに関連する小説では、アレクシオス1世の母親でアンナの祖母であるアンナ・ダラセナが主人公の小説E. Stephenson, Imperial Passions: The Porta Aureaが刊行されており、第2巻も今月出るということで、何やら中期ビザンツ創作がブームの様相を呈しているようにも見えます(もしかすると他の時代を扱ったものを私が知らないだけで言い過ぎかもしれません)。

 今は何より、佐藤二葉さんの描くアンナやその周りの人々の魅力が、西洋の歴史にさほど興味のない人たちも含めた多くの人の心に届くことを祈っています。ちなみに、同じく佐藤さんによる、古代ギリシアの実在の詩人エーリンナを主人公とした既刊『うたえ!エーリンナ』も、少し変わり者の少女が詩人を目指す熱く爽やかな青春の物語で(こちらも本編はツイ4に連載されたものが読めます)、こちらが面白く感じる方は『アンナ・コムネナ』も楽しく読めることは間違いないと思います。

sai-zen-sen.jp

*1:佐藤さんと星海社様のご厚意でご恵贈いただきました。改めてお礼申し上げます。